それはもう違うの。と彼女は言った。

街中を平日昼間に歩く機会があったので、ついでに普段寄り付きもしない服屋さんを見て歩き、値引き割合を眺めて内心感動したり粗利の確保は出来ているのだろうかと考えたりしていた。

おおよそ定価で安いものが壱万円、平均値が五万円といったラインナップのお店だった。そこの店員さんが暇つぶしに相手をしてくれた時に語った言葉。

今はね、お食事会もお出かけも、コンサートもないでしょ。売れないのよ。そういうの。

見れば明らかに仕事には向かない薄い色の生地でかつ凝ったデザインのスーツがひっそりと並べてあった。そういえばこういう格好をした人等が結婚式とかでホテルの周りに屯していたものだったよな、と思い出されるような生地と形状だった。冠婚葬祭も自粛であれば当然こういったものの需要は真先に減っていくのが目のあたりにされた。

用途が限られる服は値引きをかけても売れない、というわけでまだ需要が見込めるスタンダードなものも大幅値引きしてしのごうとしている、ということのようでした。

オーソドックスな形で生地もしっかりしていて、10年先でも着れそうな上質な服が安く買えるのはありがたい。何しろ半額が基本の値引率。けれども基本的にデフレ続きで削れるところは削ってあるはずの製造業がさらに急場しのぎで値下げした先、というのは明るいものにはならないだろう。景気が回復したとして、個性豊かで小規模な製造業がどれだけ残っているだろうか?

旅行に行けキャンペーンに税金を投入するよりも、各ご家庭に毎月現金を還流させるか消費税0%にでもして収入が増えた錯覚とともに気分よく買い物してもらった方がよほど経済は回るだろう。また、息も絶え絶えながらも作り手の意地と善意によって保たれていた技術がなんとか命脈を繋げる可能性も高くなるのではないだろうか。

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